自動車の世界で「電気自動車(EV)時代でトヨタはすぐ衰退してテスラの時代が来る」という過激な意見を見かけます。もう少し詳しく書くと「電気自動車(EV)時代が来るからガソリン車とハイブリッド車は数年で消滅する、トヨタ、日産、ホンダは消え去り、EVのテスラが世界を支配する」という主張です。「カセットやMDの時代にSONYやパナソニックが栄えたがデジタルプレイヤー時代になってアップル iPod登場でSONYパナソニックが一気に衰退したのと似てる」という意見も見ます。
日本の自動車メーカーが衰退すると予想する意見の根拠は、エンジン不要のEVは部品点数が減るから自動車がモジュール式組み立てで設計が容易な点、ピラミッド型分業から水平分業に企業間連携が変わるから日本型の企業連合が不利な点、などです。
ではEVが主流の時代が来たら音楽プレイヤーのごとく、ガソリン車が5年であっさりと引退したりメーカーのシェアが5年で逆転するようなことが起きるでしょうか。僕はそこまで自動車(乗用車、商用車を含む)の世代交代は急速には進まないと予想していますが、ピラミッド型分業から水平分業(国際型水平分業)に、という構造の変化は大いに気をつける必要がありそうです。
(ちなみに僕の親族には自動車会社勤務の人は少ないので自動車会社の浮き沈みで僕の親族の生活がかかっているという立場ではありません)
また、ガソリン車からEVへの移行を市民の環境保護志向と捉える意見もあるでしょうが、僕の想像では国と国の経済的競争の背景が大きいと感じます。欧、米、中国、日本の経済的争いとして、「ハイブリッドで有利なトヨタを叩くには電気自動車で欧、米、中国、が政治的に圧力をかけてトヨタを不利にすればいい」という考えはきっと影響していると想像できます。環境保護には水素燃焼エンジンや燃料電池など選択肢は多いけど、ヨーロッパや中国で社会的電気インフラに先行投資をして、EVに有利な社会を作り出せばEVが主流になり、そして相対的にトヨタ(ほか日本車勢)を不利に追い込むことが今後50年はできそうです。
なおシロウトの意見として「EVなんだからユーザが秋葉原でモーターとタイヤとボディ買ってきたら誰でも自動車を自作できるよ!」という荒っぽい意見もありますがヒトの命がかかる乗用車はボディ強度や衝突安全性に法的な規制がかかるので一般人が部品買って組み立ててその日に行動に出るのは無理と考えるのが良いでしょう。(もしかすると2025年頃には今より車検制度は緩くなるかもしれないが...)
◎大事な論文。2014年 論文「 電気自動車市場の特徴と将来展望 - テスラ・モーターズ社を中心として -」(趙 偉 Wei ZHAO、寺澤 朝子Asako TERAZAWA) かなり長くてPDFで214ページ。産業経済研究所紀要 第 24 号 2014 年3月。 論文中 の「2.3 電気自動車普及に向けてのインフラ」で出て来る、充電場所は「ガソリンスタンド方式よりもショッピングセンターやドラ イブイン,サービスエリアなど」が重視されるという点が大事でしょう。
以下は参考になる記事です。
ヨーロッパでのEV・PHEV販売台数【2015年間ランキング】、販売台数ランキング TOP20【2016年 上半期】では三菱アウトランダーPHEVが売り上げ好調でテスラの2倍近くの台数を販売して居るように見えます。また、英仏独の政策の動き、「フランス 2040年にガソリン車、ディーゼル車の販売禁止へ 」(2017年7月)と英国が脱ディーゼル・ガソリン宣言での「英政府は、... ガソリン車とディーゼル車の新規販売を2040年から禁止すると発表した」(2017年7月)、と、「ドイツ、2030年までに内燃エンジンを搭載したクルマの販売禁止を要求」も気になる動きです。このあたりの流れは「ディーゼル神話」崩壊、ドイツがEVへ急転換(東洋経済2017年8月記事)が読みやすい感じでした。
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