防犯のため小中学生の持ち物に名前を書かないという方針は非常に効果が薄いと考えられます。2014年発生の埼玉県朝霞市(2016年保護)の女子中学生誘拐事件で「中学生の氏名を玄関の傘で知られたから事件につながった」との意見が妙に多く、防犯のため小・中学生の名前を隠そうとの意見をみかけますが、僕は反対の意見です。名前を隠すのは効果が少ないでしょう。一部の新聞記事では「傘の名札で名前を」と強調していますが、防犯教育は名札よりもっと別のことに重点を置くべきです。
◎親族が加害者となる事件は多い
実の親や親戚は普通、子供の名前を知っているはずですが、
犯罪の加害者は誰かにもあるように日本での殺人事件では加害者の半分が親族です。この資料では
『犯罪被害者白書(平成19年版)』を元の資料としています。 誘拐の場合、平成15年度1月から10月だけで短期間の統計ながら警察庁資料
「子どもを対象とする略取誘拐事案の発生状況の概要」(15歳以下の子どもでの誘拐)では被害者との顔見知り有り25件、無し44件で全体の3分の1程度は顔見知りの犯行です。 また警察資料、
子どもの略取誘拐事案を防止するための指導啓発... の中では指導啓発するべき重点事項に「知っている人でも親(保護者)の了解なく、ついて行かないようにすること。」があります。知人イコール安心と考えるな、という教育が大切です。平成15年の時点では警察は「名前を隠しましょう」とか「名札をはずしましょう」という指導はしていません。(たぶん今後もしないでしょうが)
上記のふたつの資料の元ページは
「警察庁 - 生活安全の確保」です。
なお
警察庁「子供・女性・高齢者と警察活動」資料では平成15から24での略取誘拐の事件件数はだいたい横ばいです。
◎氏名はすでに多くの他人に知られている
郵便、宅配業者、通販の業者、学習塾などで小学生の住所と氏名を把握している人間は世の中にたくさんいます。それぞれの、子供の名簿を持った業者には個人情報保護法の規制はかかっているものの、それぞれの宅配の人間からもれる可能性はいろんなルートがあります。学校での名簿も今は配布を制限する傾向にありますがそれでもどこかでコピー機ひとつで複製されるものです。
◎氏名を知られた後の次の対策を考えないという方針は大変に防御力が弱い。
防犯とか防御を3重の壁に例えるなら、「氏名を知られない」という一番外の壁を破られないことばかり考えていると、そこを突破されて二番目の壁にまで侵入された時に何も対処できないことになります。むしろ「泥棒はすでに外の壁を破って入り込んでいる」と考えて、二番目の壁をどう頑丈にするかを考えたほうが現実的です。年に数回は会う親戚のおじさんだから必ず安心だ、とは限りません。子どもの名前で呼びかけて「学校の者です」など自称して話しかける人にも注意が必要です。
◎名前を隠すメリットとデメリット
氏名を隠すことが少しでも防犯に役立てばという意見を少し認めるとしても、氏名を隠すことの欠点も考える必要があります。(1) カサ、カバン、帽子など落し物が戻って来る確率が減る。(2)多数の荷物から似たようなランドセル、似たようなカサを見分けにくい、という二点は大きな欠点です。自分で見分けるぶんには記号とかキャラクターのシールだけでもなんとかなるでしょうが。学校の担任、クラブの顧問、保育士たちが荷物を仕分けするには名前なしの荷物では労力が増えます。
参考1◎発言小町
「子供の持ち物…なぜ見えないところに名前を書くの?」質問者は託児施設職員。見えるところに名前をかかない親に対しての苦言。名前をかかないから子供にとっても不便。落し物管理も不便と指摘。回答する親たちの意見としては都会に犯罪が多く田舎に犯罪が少ないから、名前を隠すのが防犯意識、との声が多い。
参考2◎
「罪種別 被疑者と被害者との関係別 検挙件数(平成18年) 」子どもに限らず、全年齢での略取誘拐の統計。177件中104人が面識なし。
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